メディアを通して実現する「社会の理解を得た研究」
Read this interview in English
ラボで細胞から作る食肉、いわゆる培養肉の研究の背景について教えてください。
竹内教授(以下、竹):培養肉のコンセプトは10年以上前から存在しており、2013年にオランダのマーク・ポスト教授が初めて培養肉ハンバーガーを発表しました。それをきっかけに、現在では世界中で200社を超えるスタートアップがこの分野に参入しています。シンガポールでは既に商品化されており、植物性素材に動物の細胞を数%混ぜた製品が「培養肉」として販売されています。一般の方がイメージするような「細胞だけでできた肉」は、まだ実現段階には至っていません。
小さな細胞の塊を集めて集合体として成型し、ミンチ肉のように利用する手法や、大豆ペーストに動物細胞を混ぜ込んでステーキ風に加工するアプローチも多く見られます。
社会の声に耳を傾けながら技術開発を進めていくことが、
最終的に社会に根付く研究へとつながるのだと思います。
今回の研究で新たに明らかになった点はどのようなものでしょうか?
竹:私たちの研究では、製品中における細胞の占める割合をできるだけ高め、本物の肉に近づけることを目指しています。お肉は筋肉からできており、筋肉は筋細胞が融合してできる筋線維によって構成されます。これらの筋線維が一方向に整列することで、本物の筋組織に近い構造が生まれます。私たちは、このような構造を体外でどのように再現できるかという点に着目してきました。
以前の成果では、筋線維を一方向に配列させて厚みのある筋組織を構築することに成功しました。ただし、一定以上の厚みになると内部に栄養が届かず、細胞が死んでしまうという課題がありました。
そこで今回、Trends in Biotechnology で発表した研究1では、中空糸ファイバーと呼ばれる、透析などに用いられる半透膜性の細いチューブを活用しました。このチューブは、内部を水や培地が流れることで、外側にじわじわと栄養が染み出す構造になっています。これを多数並列に配置し、その周囲に鶏の細胞を培養することで、厚みのある組織でも内部の細胞に栄養を届けることが可能になりました。
これまで我々の研究においては、牛の細胞を用いた研究が多かった中で、今回は鶏肉細胞に注目し、異なる細胞種でも同様の手法が適用可能であることを示しました。
この研究に対して海外メディアの反応はいかがでしたか?
竹:どの程度取り上げられたかを詳細に把握しているわけではありませんが、Nature2などにも取り上げていただきましたし、反響は大きかったと感じています。いくつかの海外メディアからインタビューの依頼もあり、時差の関係で主にメールで対応しました。以前、別の研究についてはAP通信やロイター通信からも取材を受けたことがあり、カメラを持ち込んでの本格的な取材も行われたことがあります。今回はそういった形式ではありませんでしたが、関心の高さは実感しています。
国内と海外メディアで、取材姿勢や関心に違いは感じますか?
竹:培養肉に関しては、国内外ともに大きな違いはない印象です。ただし、私たちが取り組んでいる「バイオハイブリッドロボット」の分野では、海外メディアからの反響が特に大きいと感じています。たとえば、皮膚で覆われたロボットの研究は世界でも他に例がなく、大きな注目を集めました。
日本では、技術的課題や応用可能性に関する質問が多い一方、海外では「人と機械の境界はどこにあるのか」といった哲学的な問いを投げかけられることがよくあります。ロボットに筋肉や皮膚を持たせることが、将来的に生命観や社会観にどう影響を与えるかといった、より根源的な問題に対する関心が強いように思います。
海外メディアに取り上げられることの意義をどのように捉えていますか?
竹:研究成果を世界に発信できるという点は非常に大きな意義があると思います。私たち研究者は、論文を通じて成果を発表し、世界を変えていくことが一つのミッションです。ただし、論文は専門的であり、一般の方には届きにくいという現実もあります。メディアを通してわかりやすく伝えることで、研究に対する社会的理解が深まり、そこから得られるフィードバックが新たな研究の方向性を与えてくれることもあります。
また、特に工学の分野では、技術を社会に役立てることが重要です。ユニークなアイディアが新しい価値を生む可能性もありますが、それが社会の価値観やニーズと乖離していては意味がありません。メディアを通じて広く認知され、フィードバックを得ることは、研究をより社会的に意義あるものへと導く手段の一つだと考えています。
日本では、技術的課題や応用可能性に関する質問が多い一方、
海外では「人と機械の境界はどこにあるのか」といった
哲学的な問いを投げかけられることがよくあります。
メディアからのフィードバックで印象に残っているものはありますか?
竹:培養肉に関しては、「食べてみたい」という好意的な意見と、「食べたくない」という否定的な意見がはっきり分かれています。特に「食べたくない」という声は、開発の方向性を考える上で極めて重要です。
私たちは、国内外で定期的にアンケート調査を行い、「なぜ食べたくないのか」という理由を丁寧に分析しています。その結果を踏まえて、より多くの人に受け入れられる製品の開発に役立てています。社会の声に耳を傾けながら技術開発を進めていくことが、最終的に社会に根付く研究へとつながるのだと思います。
国際的なメディア対応が未経験の研究者へのアドバイスはありますか?
竹:ぜひ、日本の研究を積極的に海外に発信してほしいと思います。日本には優れた研究が数多くありますが、それが「日本から生まれた成果である」と世界に認識されていないことが少なくありません。
論文がトップジャーナルに掲載されれば、専門家の間では認知されますが、一般社会にはなかなか届きません。そのため、海外メディアへの露出は、日本発のイノベーションを世界に伝えるための有効な手段です。今後、国際的な大学としての存在感を高めていくためにも、積極的な情報発信がますます求められると考えています。
1 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016777992500085X
2 https://www.nature.com/articles/d41586-025-01227-4


