この記事はAsia Research News 2023 magazineに掲載された Communicating about life beyond Earth and other big news の和訳です。
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マスメディアが科学について煽情的で誤った報道を行うことのないように、東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の研究者たちは、画期的な発見を期待できる研究を発信するために最も適した方法の模索にのりだした。オランダのライデン大学とパートナーシップを組んだELSIのプロジェクトは、地球外生命が存在するという新たな証拠を報告するための体制作りを提唱したNASAの記事に大きな影響を受けている。
NASAの著者らは、太陽系惑星でロボット探査が行われていることや、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により太陽系外惑星に関する深い洞察が得られることが期待されるといった近年の状況にから、「私たちの世代に、地球外生命の証拠が発見されることも現実的である」と述べた。同時に研究初期段階の成果が、科学的観測が裏付けている以上のことを暗示していると安易に解釈されることに懸念を示した。
ELSI の所長である関根康人は、実際に過剰な誇張と配慮不足が見られた最近の報道について話す。金星の上層大気でリン化水素分子(ホスフィン)が検出され、生命の存在を示しているかもしれないと報じられた時のことだ。「主要な報道機関は、このエキサイティングな発見を報道する機会に飛びつきました」と関根は言う。 「ですが、数日後にはその主張に研究者らが異議を唱え、研究者らとメディアの間で物議になりました。
火星に生命は存在するか?
この質問に対するメディアの憶測は研究者らが金星の大気でリン化水素分子(ホスフィン)を報告したことから始まった。リン化水素分子は通常、有機物質が分解する際に発生する。
学術誌Nature の記事で、NASA 研究者らは、地球外生命の探索に関する進展がどのように広く伝えられるべきかを7段階で示した指針を提案した。各段階には、物質の暫定的な検出段階、汚染やエラーのチェック段階、考慮可能なすべての非生物学的原因を除外する段階、独立した観察の反復段階、そしてその後のフォローアップ作業の段階などがあり、生物の存在有無に対する信ぴょう性を確立するために必要なステップが網羅される。
本指針の著者の一人であるメアリー・ボイテックは、NASAアストロバイオロジープログラムのメンバーであり、元ELSIのエグゼクティブディレクターでもある。「これまで私たちは、一般の人たちに、生命か生命でないかという2つの選択肢しかないと思わせてきました。これからの発見のすばらしさを分かち合い、一つ一つの積み重なりが次の発見へ繋がることを示し、誤った期待や警戒心を抱かせることなく、一般の人々や他の科学者らとともにこの探索の旅を行うためには、より良い方法が必要なのです。」とボイテックは言う。
これまで私たちは一般の人々に「生命か生命でないか」、この2つの選択肢しかないと思わせてきました。- メアリー・ボイテック
Nature の記事が様々なメディアの関心を掻き立てたことは、ELSIのチームがこの研究にさらに踏み込むための後押しの一つとなった。ELSI研究者らは、ライデン大学のペドロ・ルッソとイオニカ・スミーツと共に研究に着手することになっている。
共同プロジェクト名は「宇宙の別の場所で生命を発見:未来に対応したサイエンスコミュニケーションのアプローチ」。
「今回の研究は、宇宙生命の発見という将来起こりうるニュースの中でも最大にエキサイティングなトピックに焦点をあてますが、得られる結果は一般的な科学の進歩を報告する際にも有効と言えます」とペドロ・ラッソは言う。
プロジェクトが最も注目するのは、効果的なサイエンスコミュニケーションにおいてメディアが果たす役割と、一般社会の、生命の起源とアストロバイオロジーについての理解を深めていくためにメディアがどのように貢献するか、である。また、画期的な研究結果をメディアや一般の人々に伝えるための枠組み、指針そしてベストプラクティスの提示も予定している。
「研究者、サイエンスコミュニケーター、記者や一般の人々と緊密に連携し、それぞれのグループに地球外生命の手がかりを報告するための枠組み作りに協力してもらいます」と、話すのはELSIのコミュニケーション・ディレクターで本プロジェクトのメンバー、シリーナ・ヒーナティガラだ。
地球外生命に関する初期の手がかりは、どちらかといえば原始的な微生物の指標である可能性が高い。研究チームは、そうした推測的な発見はそれだけで「エイリアン」やそれに類似するサイエンス・フィクションに類するものとしてセンセーショナルに報道されやすいことを十分に把握している。
「すべての科学的発見の本質は暫定的で、そこには確認と修正作業が必要な可能性があること、そしてつまずきながらも定期的に軌道修正していくことで本当に科学が進歩していくのだということを伝える手段が必要なのです」とヒーナティガラは言う。
Further information
シリーナ・ヒーナティガラ | [email protected]
東京工業大学
地球生命研究所(ELSI)
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